319 老婆

 

年月 日々は 輪になってめぐる。
砂がとんで 川がさざめく。
家のなか 妻は夫へ歩み寄る
眉は白く 腕は震えて。
澄んだ目はもう涙ぐみ、
まわりのすべてを 憂鬱に見まわす。
心臓は 生きるのに疲れ、
地上に安息をもとめようとする。

老婆よ、お前の黒い髪はどこだ、
すらりとした立ち姿、軽やかな歩みは?
よく響くお前の声はどこへ消えた、
指輪と剣と、お前のコルセットは?
今 お前に 全世界は堪えがたく、
年月 日々の歩みは 憎い。
走れ 老婆 松の林へ
ひたいを大地にねかせ 朽ち果てるがいい。

19331020日)